地域情報システム

1.洪水水位予測の高精度化

1) 水位予測の誤差をもたらす原因

水位予測の誤差をもたらす原因としては、観測誤差とシステム誤差があるが、これらは具体的には

  1. 水位H→流量Q変換のヒステリシス(履歴性)(図 10)
  2. 降雨の観測誤差:地上雨量計でも観測誤差は存在するし、降水レーダも減ってきたとはいえ、かなり観測誤差が含まれる。
  3. 降雨の予測:1時間を超える降雨予測で実用上問題がないような誤差の少ない予測は現状存在しない
  4. 降雨→流出量の非線形性
  5. パラメタを固定した予測計算を行うと、前述2や4の補正ができない等が挙げられる。

2) 水位予測の誤差を減らす方法

これらは、

  1. 水位Hと一意の関係にある流水断面積Aを予測に用いることにより水位H→流量Q変換の誤差を回避する
  2. できるだけ降雨データを使わない
  3. 予測のリードタイムを流域の到達時間内にすることにより、精度の悪い降雨の予測が不要になる
  4. 上流側の流水断面積Aを用いることで、降雨→流出量の非線形性の影響をできるだけ回避
  5. 逐次同定方式を用いることによりパラメタ固定の問題すなわち、降雨の観測誤差、降雨流出量の非線形性の補正
  • 上流側の水位をメインとして、下流側の水位を予測する式を用いる。降雨は補助的なものととして考える。上流側と下流側の点は洪水時の流下時点から予測のリードタイムを決定する。さらに、このリードタイム内では、降雨の予測をする必要がなく、実際の降雨データを使用する。
  • 逐次同定方式は各種考えられるが、ここでは通常の(線形の)カルマンフィルターを利用する。状態量は、水路の変形に伴うパラメタと、横流入の降雨→流出変換の単位図にレーダ定数をかけたパラメタと想定し、これを下流側の水位の予測誤差が最小になるように逐次同定する。
  • 複数の水位計が存在する場合は、式を拡張して複数の水位データを用いると、降雨のデータが欠けてもかなり良い結果を出すことができる(図2)


図2 川内川の5地点の水位データを用いた予測の例。降雨データあり(左)と降雨データなし(右)はほとんど同じである。この場合100%正しい予測がなされたものとして、実測データを用いている)(参考文献5より)
詳細は、参考文献1)~5)を参照されたい。

2. 避難を促す「防災 Go!」

1) 逃げない原因は?

一般的には、「そんなことは起こるはずがない」と現状を認めない正常化のバイアスや、「みんなと同じ行動をしないといけない」という集団同調バイアスが挙げられる。不十分な情報だと住民は避難しないことが多い。3.11の時最初の津波の高さが数メートルと報じられ、そのあと停電になったため避難しなかった住民も多い。

2017年の九州北部豪雨では、2012年の豪雨の経験が仇となって、「前回大丈夫だったから今回も大丈夫」と避難しなかったという例が見受けられた。逆に、前回の豪雨の経験から高台に避難所を設置してそこに逃げた住民は無事であった。

住民が、「我が事」と思わないと避難行動には結びつかないと考えられる。そのためには、強力な臨場感が必要である。臨場感を醸し出すには、
1)住民が地域のことをよく知ること
2)技術的に臨場感を高めること
を考慮する必要があろう。

前者は、住民を巻き込んだ「防災街歩き」が一般的である。このようなイベンントにはいわゆる「意識高い系」の人たちは集まるが、その数は多くなく、メンバーが固定されるため、なかなか防災のことを良く知る住民が増えないという問題がある。これは群馬大学の片田先生が、防災の講演しても住民から「今回も良い話だった」と言われ、同じ人しか来てないということであろうと言われていた。そこで、意識高くない系の住民を巻き込むためには、日頃から使える(遊べる)情報システムに防災情報を入れるという事を考えている。


河川におけるIoT-DDRを目指した防災情報システム

後者は、例えば360VRのようなものが考えられる。このために360度カメラを用いて、災害アーカイプを作成し、防災教育に活用するための基礎的運用を試みた。

2) 災害アーカイブのための360VR

i) 撮影機材の概要と災害アーカイブ

まず九州北部豪雨の被災地がどのような状況なのか臨場感を記録に残すために360VRカメラを用いて全天球パノラマを作成するために現地で撮影を行った。撮影はSamsung Gear360(2017)(図3)及びInsta360pro(図4)を用いた。

Samsung Gear360(2017)は、360°デュアルレンズで静止画15MPまで,動画4096x2018 24fpsまでが撮影可能であり,加えて操作のためにGalaxy S6 Edge,手ぶれ補正のためにFeiyu Tech G360を用いた。

Insta360 Proは球体の本体に搭載された6つの魚眼レンズにより高画質な360度静止画/動画を可能にし,静止画/動画ともに出力が最大8K(7680 x 3840)という高解像である.これらのカメラを用いて朝倉市白木谷川で撮影を行った。その結果を図5~8に示す(参考文献6、7)。

図6に示すように、画像解像度は8K相当であるが、細かい状況を拡大して観察するには十分な解像度とは言い難いことがわかった(参考文献6、7)。

ii) さらなる高解像度を求めて

Samsung Gear360(2017)は、360°デュアルレンズで静止画15MPまで,動画4096x2018 24fpsまでそこでさらにSONY a6300を複数台用いた360VRを試みることにした。SONY g6300は静止画6000×4000ピクセルのAPS-Cサイズのセンサーを持つ。今回はステッチ(画像のつなぎ合わせ)が容易とされていた安原製作所の全周魚眼レンズMadoka360(焦点距離 f=7.3、F4)を用いたため、図17に示すようにセンサーの全てを利用することができない。

撮影されない領域が多いだけでなく、周辺の歪みが激しいことがわかる。計算上はレンズのカバー領域が180度なので2台あれば良いことになるが、周辺歪みを避けることと自動で合成されるためには4台、3D立体視するためには6台、さらに動画の場合はセンサーサイズが変わるため8台程度が必要であると考えられた。今回は、6台で静止画の全球画像合成を試みた。図10にα 6300x6 を組んだ写真を示す。

III) 自作システムの結果と考察

図11にα 6300×6 で撮影した画像 (9675×4300) を正距方位円筒図法で示す。

図13と図14を比較すると解像度の高い分α 6300×6の方が高解像度であることがわかる。しかし、センサーやレンズの性能に見合うほど圧倒的な差ではない。このため、さらに解像度を上げるために、現在の全周魚眼レンズを対角魚眼レンズにする、あるいは8台をフルに活用するため立体視を諦めて魚眼レンズより画角が狭い広角レンズにする、さらに解像度の高いフルサイズセンサーカメラにするなどが考えられる。

iv)終わりに

360VRの日進月歩は激しく、2016年4月の研究開始当初はInsta360Proも市販されておらず、g6300の複数台運用は高解像度で意義あることと思われていたが、現在では、解像度ではさほどのアドバンテージを持たない上に、Insta360Proの運用の手軽さが目立つ事態になり、変化の激しさを実感している。しかしながら、自営でg6300を複数台運用することにより、360VRに関するノウハウを得られ、どの程度のスペックが防災に必要かなどを確認することが可能であるため、将来への拡張が容易なシステムを組んだことが、有意義であったと考えられる。今後は、被災地で撮影活動による災害アーカイブの作成にも力を入れたいと考えている。

謝辞
本研究は福岡工業大学四年生の外園慶明、同大三年生の栗田航平氏(両名とも平成29年度時点)のサポートをいただいた。記して謝意を表す。

参考文献

  1. 森山聡之・平野宗夫・中山比佐雄、特許4323565号「降雨による河川氾濫予測情報を導出する端末及びプログラム」2009
  2. Real-TimeForecastingforStagesofFlashFlood,M.Hirano,TMoriyama,M.Masaki,H.Nakayama,K.Matsuo,5thCongressofIAHR-APD,1986,Vol.IV,pp.269-282
  3. 洪水位の短時間予測に関する研究、平野宗夫・森山聡之・山下三平・中山比佐雄、第31回土木学会水理講演会論文集、1987、pp137-142、査読有
  4. Real-Time Forecasting for Stages of Flash Flood(Part2), M.Hirano, T.Moriyama, | S.Yamashita, H.Tetsuya, 6th Congress of IAHR-APD, 1988, Vol. IP-22
  5. レーダ南量計を用いた洪水位の短時間予測、森山聡之・平野宗夫・中山比佐雄・松尾景治・銭谷浩之、第33回土木学会水理講演会論文集、1989、pp85-92、査読有
  6. 外園慶明・森山聡之、360VRカメラによる災害記録のアーカイブ化、第19回日本災害情報学会大会、2017.10
  7. 外園慶明、福岡工業大学社会環境学科森山研究室卒業研究発表予稿集、2017.2
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